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嘘    常本 雷遠



「あなたとは、もう一緒には居られません」
桜の下、私は愛しい人に切り出した。
顔が見られない。あなたがどんな顔をしているのかを見るのが怖い。
目にじわりと涙が溢れるのを感じる。
一年前、同じ桜舞う空の下だった。

「あなたと一緒になりたい」
彼は私に、そう言ってくれた。私は夢かと疑い、自分の顔をはたいた。
驚いた彼にもう一度顔をはたこうとした手を止められた。
顔の熱さが頬を打った痛みからなのか、彼の顔がすぐそこにあるからかは分からなかったけれど、じんとした痛みに現実と知った。
お互い一緒になるために解決したい問題があり、ひとつずつ協力しながら解決していった。
あと少しで、一緒になれる。
私の胸の病が見つかったのは、そんな時だった。

病を疲れから来る違和感と勘違いし、いや、思い込むことで乗り越えてきたものがたくさんある。
柔らかな春、それぞれの問題を洗い出した。
青が支配する暑い夏、それでもめかしこんでお互いの家に頭を下げた。
夕暮れ鮮やかな秋、二人で家を決めた。
闇が深くなる寒い冬、二人で震えながら夜を過ごした。
けれど、それらが取り返しのつかないものとなった。
彼と一緒になりたい、その一心だった。
知られてしまえば、優しい彼は気付けなかった自分を責めてしまうだろう。
これは私の問題。私の戦い。
「ごめんなさい、あなたといることに疲れてしまったのです」
ひとりで立ち向かうために、ここで私は引かなければならない。
優しいあなたを罪の気持ちで押し潰したくない。
あなたの行く先を、私が黒く塗りつぶしたくはない、、、!
無意識に、小さく咳き込んでしまった。

「……同じ生活を送っていた私だけが、無事だと思いました?」
彼は私に手巾(ハンケチ)を差し出す。その手が、震えている。
ゆっくりと顔を上げ、彼の顔を見る。
穏やかな、けれど悲しそうな笑顔。
「これは私への罰だと思っていました。貴女に気を遣えていない私への」
「違います!あんなにも私に良くしてくださったではありませんか!」
思わず声を上げ、彼の腕を掴んだ。こみ上げる涙は、先程までとは違う意味を持っていた。
「私は……あなたに同じ苦しみを感じて欲しくなくて…」
そこから先は、声にならなかった。
ただ泣きじゃくる私を、優しく抱き留めてくれた。
一年前より、弱弱しく感じる腕。けれど、暖かいと感じた。
「貴女を守ることは、、、出来ないかもしれない。それでも、、、
 貴女の苦しみを、正しく共有することは出来ます」

「どうか、最期まで一緒にいてくれませんか?」

私は、何度も、何度も頷いた。



その次の桜を、きっと私たちは見られない。
けれど、それでも私たちは幸せだったと言えるように、寄り添い、助け合って生きていく。
この病はとても苦しいもの。
それでも、この苦しみは私たちをより強く結び付けてくれた。
最期まで、一緒に。

最期まで、寄り添えるのがあなたで良かった、、、、、、





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